現代イギリスにおける「人身取引」とは

ヒューマントラフィッキング: 人身売買、人身取引のこと。

イギリスではModern-day Slaveryという言葉で語られる事も多いこの問題。英政府のレポートは、Modern slaveryについて下記のように説明している。

Modern slavery is an umbrella term that covers the offences of human trafficking and slavery, servitude and forced or compulsory labour. 

(筆者訳:Modern slaveryとは、人身取引、奴隷、隷属化、強制労働などの犯罪を包括的に意味する言葉)

もちろん現代では奴隷制度は国際法で禁じられているわけだが、経済的な理由から合法あるいは不法に入国した移民の多いこの国では、未だに移民らが奴隷のように扱われ人権を侵害されているケースが後を絶たない。

そのケースは、人身取引のオハコである売春目的に限らず、多岐にわたっている。例えば。

  • アフリカなどから、経済的な理由で親戚・友人を頼って入国。その親戚・友人からパスポートなどを取り上げられて家庭内奴隷のように扱われる。
  • 東欧などから、知り合いから良い仕事を紹介すると言われて、幼い子供たちをつれて入国。子ども手当を申請するように言われて申請するも、手当額は全て取り上げられ、強制的に売春させられる。
  • アイルランドから、トラフィッカーの手助けで船で密入国し、パスポートなどを取り上げられ、強制的に農業などの肉体労働をさせられる。*1

これらのケースが象徴するように、現代の人身取引においては、経済的な理由から多くの場合被害者は不法入国または滞在しているため、国内で不当に奴隷化されていても、周囲に助けを求めにくく、発見するのが難しい。

 

2013年時点でイギリス国内に10,000〜13,000人いると推測される潜在被害者。この問題に対し、イギリスでは、2015年にModern Slavery Actを立法化した。その取り締まりのために、2017年までに8.5百万ポンドの予算を警察に投じているとのこと。*2

実際、私がボランティアとして働いているNPOも、こういった取り組みの一端を担っている。問題の性格上、警察と緊密に連携をとって、被害者は警察から紹介されてくるパターンが多いのだ。

先週一緒にランチを食べていた、ヒューマントラフィッキング担当のヤスミンは、「私のポジションは、警察からfundされているんだよね」と言っていた。おそらく8.5百万ポンドのうちの幾ばくかが彼女の収入源になっているのだろう。

 

人身取引被害者は、多くの場合移民であるわけだが、中にはイギリス人もいるという。ヤスミンに聞いてみると、「こないだのケースでは、農場で働いていた人からの密告でイギリス人男性が強制労働されていたんだけど、その被害者はまた農場に戻ってしまったんだよね」という。

ほとんどの被害者は助けを求めている(と信じている)としても、中にはその閉鎖された環境に慣れてしまって顕在化しないケースもあるのだろう。このあたりは、愛する人が犯罪者となるドメスティックアビューズとも似て複雑な問題だ。。