国家に属さないナショナリズムとは
ナショナリズムが、国家が国民を動員するためのもので、教育や、国の記念日(創立や戦争勝利・敗北などを思い出す日)、国旗や国歌をはじめとするシンボルなど、国家のスポンサーによる各種の制度がそれを可能にするのだとすれば、いわゆる「国家に属さないナショナリズム」はどのようにして生まれるのでしょうか?
マイノリティ・ナショナリズム、サブステイト・ナショナリズム、トランスナショナル・ナショナリズムなど、色々な呼び方・分類の仕方があるものの、こうした例は世界中に見られます。
代表的なものでは、カナダのケベック、そして欧州を中心に、スコットランド、北アイルランド、ウェールズ、バスク、カタルーニャ、フランダース、クルド、そしてルーマニア・スロバキアにおけるハンガリー人や、クロアチアにおけるセルビア人なども広義には含まれるでしょうか。
特にケベック、スコットランド、カタルーニャ、フランダースなどは、実際に「サブステイト・ナショナリズム」が一定の成功をおさめ、国家のなかで、自治区としての特別扱いがある程度認められています。
数あるエスニック・マイノリティーの中でも、ただのマイノリティグループとしてではなく、特定の領域で自治権を与えられるコミュニティーは「ネイション」と呼べると言えるでしょう。
アンソニー・スミスもこのように述べています。
‘Only those ethnie with homelands, or real chances of obtaining a homeland of their own, can seriously pursue the route towards nationhood’ (Smith, The Ethnic Origins of Nations)
(故国、またはそれを保持できる可能性のあるエトニだけが、ネイションとなる道程を進むことができる)
サブステイト・ネイションは、自治権確保のため、特定の領域との歴史的なつながりの深い集団である必要があるため、歴史的・文化的にユニークであることを強調し始めます。カタルーニャは1714年までは自国を自ら統治していたであるとか、スコットランドの歴史的な繋がりはイングランドよりヨーロッパの方が深いであるとか。
言語や宗教の違いなど、従属関係にある国家との差異を明確化するため、文化的な資産も最大限に生かされます。ケベックのフランス語、カタルーニャのカタルーニャ語など、前者は「英語よりステータスが低い」とされた一方、後者は「格の高い言語」とみなされていたなどの文脈の違いはありますが、言語の違いは分かりやすくサブステイト・ナショナリズムのアイデンティティ形成に貢献しました。
これらはいずれも民主主義国家の中で発達しました。結果、サブステイト・ナショナリズムは有権者からの支持を得る政党形成にこぎつけ、民主主義的ナショナリズムの達成を成功させます。Scottish National Partyにしろ、Parti Quebecoisにしろ、Partido Nacionalista Vascoにしろ、有権者の支持を獲得できるからこそ成立しえるというもの。
特にヨーロッパの事例では、EU発足でヨーロッパの統合が進む中、国家に変わる新しい組織としてマイノリティが期待し、サブステイト・ナショナリズムの勃興に繋がったとの説もあります。統合が分裂を生む・・・勿論、結果的に国家から独立までしているサブステイト・ネイションはまだありませんが、ヨーロッパ統合を主導した先駆者たちは、ナショナリズムの終焉を期待していたと想像できるだけに、すこし皮肉に感じてしまいます。
なお、サブステイト・ナショナリズムについては、Keating氏の文献を多く読みました。たとえばコチラ↓
Minority Nationalism and the Changing International Order
- 作者: Michael Keating,John McGarry
- 出版社/メーカー: Oxford Univ Pr on Demand
- 発売日: 2001/08/16
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